『禅的生活』書評
重松清さんのポケットから
バージョンアップできるかな



重松 清   

 『禅的生活』はタイトルのイメージどおり人生指南の一冊だが、その種の本を敬遠する読者には「言葉の本」だと紹介しておきたい。百を超える禅語―お馴染みのものでいえば「知足(ちそく)」「日日是好日(にちにちこれこうにち)」「安心立命(あんじんりゅうみょう)」などを紹介しながら、一つ一つの言葉が根差す<禅の世界観>を解説する本書、著者の狙いはそれを通じて読者に<日常生活に具体的な変化を生みだしていただく>ことだとしても、言葉と世界観の関係や、脳の働きと禅の関係も興味深い。
 <脳のことは宇宙同様まだまだ謎が多いが、坐禅や瞑想によってそれまで確定していたニューロンネットワークがニュートラル状態になり、場合によってはネットワークの組み替えが促されるのかもしれない>―パソコンに譬えるなら、<禅の世界観>とは精神のOSの一種ではないか。禅的生活への勧めはOSを乗り換えることの勧めでもあるだろうし、その世界観に基づいて意味や機能が付与される禅語は《禅OS対応》のソフトウェアというわけだ。


「朝日新聞」2004年1月11日号