■産経新聞 2006年4月3日号 読書:Books 

 釈迦が亡くなる直前に「(釈迦亡き後)私たちは何を頼りに生きてゆけばよいのですか」と問う弟子たちに与えた「(外なる権威に頼らず)己自身を頼りにして生きてゆきなさい」の教えが「自燈明」。
 本書は僧侶で人気作家の著者が、「自燈明」の言葉のもとに、自ら得心した心の風景を語る。二〇〇四、五年になされた講演をまとめたもので分かりやすい。
 たとえば日本の春を彩る梅、桜、桃の花。枝を剪定(せんてい)し実を塩漬けにする梅にはどこか堅苦しい倫理主義、儒教の匂いがする。桜は日本土着で格別だが、桃には倫理以前の道教の味わいがある。おおらかな桃の味わいこそ世知辛い昨今、見直されてよいのではないか。じじつ日本の詩歌に桃が登場するのは少ないそうだ。