自室から眺める竹林に、大きな水木が見える。東北では「こけし」作りに使われる木で、早春に大量の水を吸い上げるため枝を切ると水が流れ出る。それで水木と呼ぶらしい。階層状の白い集合花も清々しいが、秋に葉が赤く色づくのも楽しみだ。
ところがなぜか、下枝の葉が黒くなって落ち、樹高十五メートルほどの上半分しか葉がなくなってしまった。女房がそれを訴えるので、今朝は竹林にスコップを持って入り、根周りに「天窓」を開けた。目詰まりした地面に「天窓」を開けて土中の通気を促し、樹勢の回復を願うのである。
気短かな秋の蚊に頭を何ヵ所も刺され、作業をしながら「ジャニーズ事務所」のことを考えた。「寄らば大樹の陰」と言う。見れば大きな水木の下にも、茗荷や山椒、ドクダミ、アザミなど野生の草木が繁茂し、花や実を見せている。
私などの年齢で「ジャニーズ」といえば、初代から知っているわけだから、事務所の存在がさほど大きいわけではない。しかし事務所が大きくなるにつれ、この木あるがゆえに生えられて草木も多いのだろう。巨大化した権力の専横はマスコミをも巻き込んでいたようだ。雨や風を和らげ、直射光を防いでくれるはずの大樹だが、じつは下草から養分を吸い上げつつ大きくなったものの、奇妙な病気に罹っていた。そして今、大樹は枯れかかっているのである。
大樹には落雷の怖れがある。枯れてしまえば倒木の危険もある。やはりここは、根元から伐り倒すべきだろうか。大きな水木を伐れば、大量の水を含んだ樹液が噴き出すだろうが、やがてそれも下草たちは栄養に変えてしまうに違いない。水木に代わる喬木も、自然が求めるならいずれ生えてくるだろう。
こうして自然界の「淘汰」に任せれば話はむしろ単純だが、娑婆世界はそう簡単には割り切れそうにない。なにより難しいのが「性被害」の認定とその賠償基準だろう。加害者がすでに物故者となった今、それはどのように可能なのだろう。
多くの若者の一生を左右した大事件として、厳しく処罰すべきだし賠償もされるべきだと思う。男気ある告白もこの際は讃えたい。しかし、だからこそ、その認定と賠償の難しさを想うのである。
うちの竹林の水木については、まだ伐らずに賦活策を打つつもりである。しかし事務所に所属するタレントたちは、この際事務所を離れ、新天地を求めて独立しては如何だろうか。
たとえ水木を根元から伐っても、切り株からやがて新芽が出るに違いない。新芽に病気がうつらないことを切に祈りたい。
水木の花言葉は「耐久」と「成熟した精神」。所属タレントたちはその花言葉だけを土産として胸に秘め、新たな大地でより大きな花を咲かせてほしい。
福島民報 2023年10月8日