ここ十年以上、うちのお寺では境内や墓地に草を生やす努力を続けてきた。長年草を毟りつづけた土壌は硬くなり、雨を吸い込めなくなって桜の下枝が枯れはじめたからである。
草や苔の生えた地面は柔らかさを取り戻し、吸水性が格段に増した。大雨が降っても驚くほど土中に吸い込み、U字溝から川へ流れ込む水量は確実に減った。最近は線状降水帯など桁外れの豪雨も多いから、連続堤防と言われるこれまでの治水法では間に合わない。川に流れ込む水量を事前にどれだけ減らせるかが要で、その際大きな力を発揮するのが生きた木の根や草たちだ。境内や墓地に木を植えて草を生やすことは、今や重要な「環境整備」なのである。
そんな折も折、ビックモーターのニュースを視て驚いた。修理を請け負った車にわざと傷をつけ、靴下にゴルフボールを入れた飛び道具で車体をへこますなど、保険金の水増し請求のためのやり方には呆れ果てたが、その後に発覚した店舗前の街路樹の枯死にはもっと不気味な恐ろしさを感じた。関東から東海、近畿から九州まで、多くの地域の当該店舗前で街路樹が枯れ、ある所では伐採されて切り株だけが残り、所によっては土だけになっているのだ。
しかもそのことに関し、元社長は店舗前の草やゴミをなくす「環境整備」の一環だと発言したのである。
除草剤をかけて木を枯らすのが「環境整備」と言われ、誰も逆らえない空気が怖い。本部の査察と降格に怯え、従うしかなかったのかもしれないが、トップが代わっただけでその空気は変わるのか。
今回の事件では、金のためなら何でもする、という言葉がなんだか懐かしく憶いだされた。昔それは余程悪徳な行為という印象を伴う言葉だったが、今や「そんなの当たり前でしょ」と言われそうだ。
だからドライバーで車体に傷をつけ、ゴルフボールでへこます作業はバカバカしいほどわかりやすい。お金のため以外ありえないからだ。しかし公共物である街路樹に除草剤をかけたのは何のためだろう。街路樹が枯れると、どんな儲けがあるというのだろう。
意味のよくわからない行為が集団でなされるのはじつに不気味である。今や全国に三百店舗、六千人の従業員というから、これはもう往時のオウム真理教以上ではないか。いったいなぜ、街路樹が邪魔だとされたのか、どうして木々をゴミと同列だと思ったのか、CO2削減の折から、是非とも詳しく訊いてみたい。その思考回路がわからないかぎり、この会社の林立はあまりに危険な環境問題ではないか。実際、県内でも三店舗目が八月にオープン予定である。
ビックモーターが近くにあるという「環境問題」を、我々も「環境整備」したいが、やり方は新社長が教えてくれるだろうか。
福島民報2023年8月6日