文化財盗難でも時効?

 昭和五十五年の冬、「雪村庵」の仏像が忽然と消えた。台座を含めると約35キロほどの立派な仏像だが、正面の扉はそのままに、横手の小さな戸を外して運び出したらしい。
 仏像は昭和四十三年に福島県の重要文化財に指定されていた。画僧雪村周継が晩年を過ごした雪村庵の本尊仏である。
 地域の人々は「観音さま」と呼び、県への登録はなぜか大日如来だが、実際は華厳宗(けごんしゅう)などが祀る宝冠釈迦如来(ほうかんしゃかにょらい)だと、私は思う。いずれにしても、疫病よけにご利益(りやく)ありとされ、李田(すももだ)地区の人々を四百年以上見守りつづけてきた大切な仏さまである。
 庵にはその後、漆塗りの(から)のお厨子だけが鎮座していた。年に二回、祭礼が行なわれるのだが、その時もお厨子の中は空だった。やがてそれでは忍びないと思う信者さんが身代わりの観音像を寄贈し、安座供養を行なった。雪村は私の住する福聚寺ゆかりの僧であったため、その他の儀式でも先代住職や私が導師を務め、事の推移はつぶさに拝見してきたのである。
 ところが一昨年、この身代わり仏も盗まれた。田村地区、郡山市も含む広範な仏像盗難事件であったため、犯人はほどなく捕まった。およそ百二十体以上の仏像と共に庵の観音像も無事に戻されたが、犯人発見の契機はネット・オークションだった。明らかに換金目的の盗難だったのである。
 全国でも仏像などの盗難事件が相次ぎ、わが雪村庵の元々のご本尊についても、今なお所在不明の文化財として文化庁のウェブサイトに掲載されている。
 さて驚くべきは今年の四月、その元々のご本尊がYahooオークションに出品され、落札されたのである。
 しかし驚いたことに窃盗罪の時効は七年だから、警察は手が出せないという。Yahoo側も正式な売買だから出品者や落札者は明かせないというのだ。四百年以上地域で護られてきた仏像の窃盗罪が七年で無効? そんな話があっていいのだろうか。
 もとよりネット・オークションに出される仏像は、殆んどが盗品だろう。いくら経済的に苦しいとしても、お祀りしていたお寺などが仏像を売るなど考えられないからである。
 まずは文化財であることを時効の「停止」用件に加え、またネット・オークションでの古仏像売買を禁じる法整備を求めたい。
 とは書いたものの、ネット・オークションに出せなくなれば、闇市場で売るだけか……。ならば古仏像全体に時効「停止」を広げてはどうか……。
 ともあれ落札者の方、ご連絡いただけませんか。仏像の魅力について、じっくり語り合いませんか。

「福島民報」 2026年8月9日