共に考えよう 復興とはなんでしょうか

 東京電力福島第一原発の事故で、多くの福島県民がさまざまな形で被災しました。なかでも子供・若者を支援したいと、「たまきはる福島基金」を立ち上げ、理事長になりました。「たまきはる」は万葉の「いのち」の枕言葉です。ドイツから送られてきた粉ミルクを被災地の病院へ寄贈したり、新潟県の公民館で不用にんった図書8千冊を被災地の葛尾村などへ届けたりしました。村では一昨年、小学校が再開され、今春は2人の新入生を迎えるそうです。
 ただ、復興とはどうなったら終わりなのか。そう考えると複雑です。
 福島の米は家庭用米として高く評価されていました。震災後、お弁当屋などで使われる、より安い業務用米の割合が増えました。約9年がたち、市場の評価は変わってしまったのでしょうか。町づくりも、帰還する人の多くが高齢者です。もとの状態に戻すのは簡単ではありません。
 一方、喫緊の課題があります。放射性物質と処理水の対処の問題です。
 福島第一原発近くに設けられた中間貯蔵施設には、毎日トラック3千台が、表土をはぐなどして出た汚染土を運び込みます。30年以内に県外で最終処分する計画ですが、本当にそれでいいのでしょうか。コンクリートは100年もちません。「中間的」と位置づける限り、保管に甘さが生まれないかと危惧します。
 また、原発の汚染水も1日170トン出ています。貯蔵タンクは増え続け、東電の試算で、2022年夏にも敷地が満杯になってしまいます。何がベストな解決なのでしょう。
 放射性物質の問題を含め、福島がどういう状態になったら復興したと言えるのか、また、そのために何をすべきでしょうか。被災地支援の体験もあれば、お聞かせください。
1月30日必着です。

朝日新聞 2020年1月11日
                                

復興とは何でしょうか

福島県 会社役員の新妻宏明さんの「聖火リレーの陰 収束遠い事故」、東京都 無職 門馬晶子さんの「更地増える商店街や住宅地 見て」を始めとした投稿から

 新妻さん、門馬さんの投稿からは、故郷を奪われた「喪失感」の深さを感じます。福島第一原発の被災地には若者や子供がなかなか戻りません。コミュニティー再生を牽引する人が足りない。特に帰還困難区域の将来像は十分描けていない。東京五輪・パラリンピック組織委員会が掲げる聖火リレーのコンセプトの柱の一つは「祝祭による一体感」。五輪で祝祭ムードは高まるかもしれませんが、そのために原発の是非を真剣に問うことがおろそかになってはならないと思います。
 加藤さんが見たコメの「実証栽培」からは、原発近隣の自治体が農業再生に向け苦闘する姿がうかがえます。一方、福島県内ですでに出荷されているコメは全く放射性物質の問題がないことも知ってほしい。年に生産される約一千万袋全てが検査を受け、この五年、全て基準値を下回っています。内海さんが描く魚市場の放射性物質の検査も涙ぐましい取り組みです。マスコミがこうした実績をもっと大きく取り上げてくれれば、風評被害ももう少し減るのではないでしょうか。
 新たな風評被害の原因になりかねない原発にたまる汚染水。木村さんの、貯蔵タンクを福島県外にもつくるアイデアはありがたいのですが、負担を他県に押しつけるようで気が引けます。海洋放出する場合、宇惠野さんが言及する「人体への影響」について、安全性が立証され、その情報が国民に共有されるのが前提。そのうえで漁業者はじめ関係者の理解を得る手続きに時間をかける。密室で決めてはなりません。
 観光を軸とした小川さんの復興案ですが、被災地に長期滞在する人は多くは期待できず、すぐには人口増にもつながらないのではないか。一方でダークツーリズムは被災地の実情を他県の人に知ってもらうきっかけになると思います。復興が進む分野と、進まない分野が存在する障害と、両面の理解が進むことを期待します。

朝日新聞 2020年2月22日