■「大法輪」(大法輪閣) 2007年5月 書物の輪蔵 

 仏教は無我を説くが、「わたし」を超えるとはどんなことなのか?
 『わたしを超えて−いのちの往復書簡』は、作家で禅僧の玄侑宗久氏と人気エッセイストで癌罹病の体験を持つ岸本葉子氏が、一年にわたり自在に思いを綴り合ったその記録。書簡を交わすうち岸本氏は玄侑氏より瞑想の実践や陀羅尼の暗誦へと誘われるものの、どうにも消えない自我に苛まれる。
 やがて二人は「わたし」を超えた「いのち」の実相とは何かという命題に直面、考察を深め合い、核心に迫っていく…。高い見識と雅趣に富んだ言葉が交錯し合う本書は、読者に心地よい思索の深みを味わわせてくれる。「いのち」のありように思いが至る好書だ。(中央公論新社/税込1470円)