『祝福』

「ちくま」2005年11月号(ちくま書房PR誌) 読者のひろば

 凛とした蓮の花に言葉にできない言い知れぬ悲哀を感じる。蓮の花の華やかさゆえであろうか。蓮に何のメッセージを託したのであろうか? 読み手によりそのイメージは様々であろうが、それをひもとくものとして玄侑さんの小説がある。それぞれがそれぞれの佳さを引き出す、そして引き合う何かを感じる。

「室内」2005年11月号(工作社)  読書日和

 ずっと待っていたのだった。
 一年じゅうむけられる、あまたのレンズから、不忍の蓮はようやくひとりを見つけた。憑かれた写真家は、一万七千回、シャッターを押すはめになった。
 まんまとフィルムにのりうつると、池を抜け出し、ふたたび迷わず、一本の筆にたどり着いた。北国に住む作家もまた、上野をさまようこととなった。
 ふくらんで、開いて、閉じて、枯れて朽ちる。植物の業が、ひとに呼吸をあたえた。
 ……本気だと感じた人の思いが、まるで圧縮ファイルがインストールされるように、すぐに自分のなかに移り、そして自動的に解凍されて起動しはじめる気がする。
 主人公のことばは一冊にかかわった、それぞれの身のうちにおきた波だった。やはり縁は、人為のものではなかった。
 たしかにつながれた水面で、蓮は安らぎ、目を閉じる。

「毎日が発見」2005年11月号(角川SSコミュニケーションズ)  今月おすすめの

東京・上野不忍池の蓮が花開いて実をつけ、枯れ落ちるまでを追った写真と、美しい恋物語の組み合わせ。可憐なつぼみ、妖艶な花びら、そして気高く滅びていく姿。写真はそれぞれの瞬間を鮮やかに切り取って、植物の妖しく不思議な魅力を伝えている。蓮の花の化身のような中国人女性との純愛を描いた小説がさらに深い余韻を残す。

「ダ・ヴィンチ」No.139 2005年11月号 今月の注目本 独断と偏見だけど超厳選 130 

写真家・坂本の手による蓮の写真に触発されて、芥川賞作家・玄侑が紡ぎだした激しい恋の物語。可憐な蕾や妖艶な花びら、気高い最期の姿など、写真がもつ圧倒的な迫力に、美しいストーリーが呼応する。写真と小説の奇跡のような出会いを、じっくりと堪能したい。
『祝福』筑摩書房刊