「和楽」 2006年5月号  今号の一冊 仏教の言葉の中に安らぎを見出す3冊

茶道で最も重きを置かれるのが墨蹟。それでも知っているようでよくわからない禅語の数々を、高僧の墨蹟とともに禅僧作家がわかりやすく語る。季節とともに暮らしていく大切さを実感。

「夕刊フジ」 2006年2月7日号  ライブラリー

床の間の「掛け軸」。それも判読不能な“書”となると、真剣に鑑賞する人は、よほどの趣味人か好事家だろう。 だが、芥川賞作家で僧侶(臨済宗)の著者は「床の間に飾られる禅語とは、人生に意味や意義を与え、ひとつのまとまった結晶にするための、代表的な塵挨(じんあい)のようなもの」で、「(その語の)前後を味わい、納得した事柄を生活のなかで実践していくうちにあなたは自由に」なるという。
 本書はそうした禅語の“見方”を巧みな表現力で解説する。歳時記形式で、例えば2月の項では『寒山詩』の一節「八風吹不動(八風吹けど動ぜず)」。仏教で“八風”は「自分を惑わす世間からの八種類のアプローチ」と解釈。他人の評価はうるさいが、あまり気にしないほうがいい、という意味だ。簡単なようでいて奥は深い。

「ダーナ」 2006年冬号(1/20刊行)  DANA INFORMATION/BOOK

 生きていくうえで必要な常識も、ともすれば私たちの精神を不自由にする。その世間の常識も禅語に学びながら、禅語そのものを忘れることを繰り返すうちに、少しずつ抜けて自由になるという。そんな禅語の世界の豊饒を、老師24人の墨跡と達意の文章で紹介。禅語を味わうごとに、自然のごとく豊かで柔軟な心になっていく、話題をよんだ著者の『禅的生活』実践編

「週刊アサヒ芸能」2006年1月26日号 「禅とは”下着”。ある意味、無節操  他宗教の信者も禅を学びに来る」 

 <(人は)怒りの種を自分の頭や口で再生産している>。至言である。かように示唆深い禅の想念を、玄侑宗久氏は実体験をベースに、都々逸や俳句を引用しながら、時にアカデミックなアプローチを交え、手ほどきする。融通無碍な解説に触れるにつれ、心がふっと軽くなる。そして禅僧たちの無邪気にも見える、折々の書を眺めていて勃然と思うのだ。禅っていいなあ、と。
 同時に疑問もわく。「天国に行けるよう善行を積め」的な教えが一切ない禅は本当に宗教なのかと。玄侑氏は”家業”を継ぐことに反抗し、ナイトクラブのマネージャーなど職を転々とした末、生家の寺の副住職となる。その来歴ならではの(?)ふるった答えが返ってきた禅は下着です。
 「人は何の指針も持たない、いわば、すっ裸の状態では暮らせません。何かしら着ます。ただ、キリスト教とイスラム教を重ね着するわけにはいかない。でも下着なら上に何でも着られます。実際、他宗教の信者が禅を学びに来ます」
 ただし補正下着ではない。
 「身体も1つの自然。それをコントロールしようという発想は西欧のもの。禅では、いかに自然に寄り添うかが人の力量だし、自然界で起こることに矛盾もなければ、よしあしもないと考えるんです」
 運命に無心で従うことができれば、幸運も不運もない。禅はそう説く。だが、実践には骨が折れそうだ。「アサヒ芸能」1/26(徳間書店)
 「いえ、自転車と同じでいったん乗れてしまえば、その技術は絶対忘れないし、苦労もなくなる。だいたい”しなければ”と思うから仕事になって、ストレスがたまってくるんです。遊びにしてしまえばいい。心臓だって遊んでいるからこそ休まない。見上げたもんです。それに比べて脳のエラソーなこと(笑)。脳に振り回されてたまるか、というところが禅にはあります」
 最近、評判ガタ落ちの日本だが、よき面を思い出させてくれるのも本書の特徴だ。
 「外国から取り入れたものを何でも発展させてしまうのが日本のすごさですし、その無節操さは禅に通じます。日本人が無意識につけている下着、価値観には禅がすり込まれている。それを示すため俳句や都々逸を引用しました」
<流るるや紅葉一葉の浮き沈み>。大国の一元論に振り回されぬよう、本書を読んでしかとパンツをはこう。禅は急げ。
<執筆:浜 美雪>

「ミセス」 2006年2月号(1/7発売)  Book/編集部のおすすめ  「日々の暮らしにアクセント」(文/斎藤みち子)

 自然とはどんどん切り離されて、毎日の生活にメリハリがなくなっていく。春夏秋冬、四季に寄り添った含蓄ある言葉を、禅の中の言葉から探してみようというもの。著者は僧侶であり、芥川賞を受賞した作家でもある。ひとつの言葉、ひとつの章がとてもわかりやすく、丁寧に解説されているのだが、奥が深いだけに読み飛ばすことができない。この本を手に取るときには、たとえ短い時間でもしっかり向き合いたい。各章に掲げられた書や絵がすてきだ。書が読めないのが悔しいが。
 この本を熟読すれば、常識に縛られた生活から、日常に風が吹き、より自由になる「禅的生活」がはじめられる。そんなに簡単にいくわけがないが、心にとめておくだけでも、効果あり。 

「読売ウィークリー」 2005年12月25日号(12/12発売)  不思議図書館「今週の冊」

 世間の常識は、往々にして人の精神を不自由にする、と著者はいう。禅の精神を日常で実践することで、既存の常識から心が解き放たれ、自由になれるという。言葉を超え、季節に身を委ね、自然と調和する、そんな禅的生活の魅力が伝わってくる。 
 
「ダ・ヴィンチ」 2006年1月号(12/6発売)    今月注目本 独断と偏見だけど超厳選 130

 「世間の常識に”無邪気”で向き合い、もっと自由に心を解き放つ。季節に寄り添い自然と親和する」。本書は禅語の世界の豊饒を墨蹟と達意の文章で綴った魂の禅的生活実践編。宗教者であり、さまざまな職業を経験してきた実生活者である著者の言葉が心に響く。(エ)