日曜論壇 目次
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第37回 「情報」という名の幽霊
第36回 死ねる病院はどこ?
第35回 墓地共用のすすめ
第34回 花散らぬ、嵐
第33回 七転び八起き
第32回 まもなくクランク・アップ
第31回 新作『阿修羅』のこと
第30回 さまざまな立場
第29回 生物多様性と多文化共生
第28回 団子と頭痛
第27回 さまざまな正月
第26回 金風
第25回 お寺のゴミ問題
第24回 私は裁きません!
第23回 なんのための改名か!
第22回 新しい郵便局にお願い
第21回 未然防止策?
第20回 奈落の月
第19回 ちょっと待って!
第18回 若冲展に思う
第17回 嗜好品という文化
第16回 約束
第15回 母から子への手紙
第14回 無鉄砲と、鉄砲
第13回 「小学校英語」必修化に反対!
第12回 木瓜と認知症
第11回 「満」と数え年
第10回 いくつもの春
第9回 ネコとヒトの教育
第8回 電話の電話、郵便の郵便
第7回 同期の不思議
第6回 御朱印コレクション
第5回 自燈明
第4回 帰りなん、いざ!
第3回 ウォーキング・サピエンス
第2回 形而上的おぼん
第1回 タケノコ狩りと自立
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映画の撮影開始のことを、手回しカメラ時代のハンドル(Crank)にあやかってクランク・インと呼ぶ。今や手回しではなく、記録用のビデオさえデジタルだが、ともあれ映画『アブラクサスの祭』の撮影が始まっている。
それに先だち、一般からの出演者を募るオーディションが行われたのだが、国見町と三春町の二カ所での応募総数はおよそ七百人。驚いてしまった。
役者さんたちや選ばれた人々も含め、今やどっぷり日程を割いて大勢の人々が撮影に没頭している。スタッフも五十人ほどいるから滞在生活も大変である。しかし国見町に奇特な方がいて、ほぼ新しい一軒家の住宅をスタッフのために無料で開放してくださった。また、主な撮影地となる三春や国見では炊き出しボランティアの主婦の皆さんにもご協力いただいている。今や本当に
希有
(
けう
)
な共同体が、この映画撮影のために出現しているのである。
クランク・イン当日には三春の田村高校で撮影があり、私も短時間だが顔を出してみた。体育館での撮影だが、生徒さんたちや先生方にも出演いただき、ほとんど学校ぐるみのご協力と言っていい。
また十九、二十日は、国見町の龍雲寺さんで法要やお葬式の様子を撮影した。龍雲寺さんは
勿論
(
もちろん
)
だが、近くにお住まいの定光寺さんの和尚さんには儀式や所作などの指導でお世話になり、実は僧衣までお借りしている。
僧侶役のスネオヘアーさんや小林薫さんは、すでに夏のうちから東京谷中の全生庵で住職さんから所作指導を受けている。スネオヘアーさんの断髪式も、全生庵でしていただいた。住職の平井さんには本当にお世話になった。
別に撮影の進行が一々私に知らされるわけではないから、私の知らないところでも大勢の人々にお世話になっているはずである。いや、世話になるという一方的な関係ではなく、多分お世話するほうも楽しんでくださっているのだと思う。そうした関係にも後押しされ、特に主演のスネオヘアーさんはどんどん僧侶になりきっているというから楽しみだ。
私が密室で書き、加藤直輝監督が独り繰り返し読んだ本が、今やオフィス・シロウズのプロデュースと監督の指揮によって大がかりな祭に育っている。まさに『アブラクサスの祭』である。
この文章が掲載される頃はそろそろクランク・アップも間近。最後は龍雲寺境内でのスネオヘアー・コンサートになる。彼はこの映画のために新曲をつくってくれた。監督が「いい曲ですよ」と太鼓判を押すその曲を、私も聴くのが楽しみだ。
できることなら野外撮影のその日は、小春日和になってほしいものだ。
福島民報 2009年 11月29日 日曜論壇