政府の復興構想会議が一段落して、今一番気になっているのは警戒区域内に取り残された動物たちのこと、また福島県民の内部被曝[ひばく]のことだ。しかもこの二つは、私のなかでは繋[つな]がっている。
犬・猫などのペットについてはNPOなどの協力もあり、多くが救い出されて飼い主との面会も果たしつつあるが、なにゆえ鶏や豚、牛たちは「殺処分」しなくてはいけないのか。というと、農林水産省の役人の答えは「内部被曝の問題です」とのことだった。むろん調べてはいないわけだから、「きっと被曝した草を食べて内部被曝しているだろうから」という理屈である。
この眼差[まなざ]しが注がれる相手は当然、牛・豚ばかりではない。福島県民も同じように見られているはずである。だからガソリンの給油や宿の宿泊を断り、「ホーシャノーが来た」と虐[いじ]めるなどの差別が起こっているのである。
当然のことだが、家畜の殺処分には飼い主の「了承」が必要である。しかし現在でも約3分の2の飼い主たちが了承せず、了承しないまま放置されて多くの動物が餓死し、また隠れて餌を運ぶ飼い主たちも大勢いる。
事の重大さを見かね、日本獣医師会など幾つもの団体が動きだした。6月25日には「福島生物資源放射能調査団」という団体が富岡町に入ったが、そこで見たのは実に悲惨な光景だった。約400頭の豚が全て餓死しており、1頭だけ犬のように痩せ細って生きていた豚に水を与えると、10リットル以上を休まず飲み続けたという。
脅すわけではないが、このまま殺処分を撤回させないでおくと、この哀れな豚は将来の福島県民の姿になる。「内部被曝しているかもしれない」くらいで、どうして殺していいのか。早急に安全で通いやすい場所に移し、彼らの被曝状況を丹念に調べるべきだろう。これまで世界に例のない、家畜たちの被曝についての詳細な研究を進めるのだ。
だいたい内部被曝についての知識を、我々[われわれ]はあまりにも持っていない。シーベルトやベクレルはそろそろ慣れた人でも、「cpm」(カウント・パー・ミニット)という単位はご存じない方も多いだろう。これは1分間に計測される放射線の数を意味するのだが、1500cpm以上だと「要精検」になる。しかし幾つなら恐ろしく、幾つなら安心していいのか、誰かご存じだろうか。
27日には浪江町の人々が、千葉県の放射線医学総合研究所まで調べてもらいに行ったけれど、詳細な基準や対処法などを早急に確立しないと大混乱になるだろう。学校の校庭の基準値のときと同様、いやそれ以上に、巷[ちまた]には超楽観論と超悲観論が入り乱れている。超悲観論者の言説が、堂々たる福島県民差別や風評被害に繋がることは今から簡単に想像できてしまうのである。
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