今、福島県内は、放射能についての話が率直にできない状態だと感じる。誰もがある程度の知識ですでに態度を決定し、それに反する新たな情報には耳を貸さないのである。それは新聞やテレビなどのメディアも同じである。さまざまな情報発信を積み重ねてきた以上、「いまさらそんなことは書けない」ということかもしれない。これまでの「常識」を覆すことに、彼らは極めて臆病である。
これまでの「常識」とは何か。それはまず、子どものほうが被曝影響が大きい(だろう)という考え方である。これはもともと、ラットの精子と未熟な精母細胞、さらに未熟な精原細胞への大量のガンマ線照射実験に由来している。つまり、未熟なほど被曝による損傷が大きかった(ベルゴニー・トリボンドーの法則)ため、大人と子どもの場合も、あるいは低線量の場合も「同じではないか」と推測したのである。
科学的と言うにはあまりにも大雑把な類推だったわけだが、最近になってこの推測を覆す実証データがいろいろ出てきている。
例えば、南相馬市の産婦人科医高橋亨平先生は、震災後に生まれた子どもたちを定期検診で調査し続けた結果、昨年の十一月下旬には以下のように書いている。「禁句のように思われていますが、子供達は大人よりもセシウムに強いことも分かりました。傷ついた遺伝子の修復能力も、尿中の排泄能力も、からだの組織別の半減期も、数段成人より能力が高いのです」
また、ボールボディーカウンターによる内部被曝調査を続けてきた南相馬市総合病院の坪倉正治医師は、セシウムの生物学的半減期が成人では百〜百二十日なのに対し、六歳時では約一カ月、一歳時になると十日という短さであることも発表している。
もとより子どもたちはがんに罹りにくい。活性酸素を無化する能力も、免疫機能も、大人より高いことは容易に想像がつくはずである。ところが単に細胞分裂が盛んであること、また先のベルゴニー・トリボンドーの法則から、人によっては子どものほうが「何倍も」被曝影響が大きいと、言い続けてきたのである。
確かにこれが覆ると、大きな混乱が生じるかもしれない。
福島県から県外に避難している人々は、たいてい「子どものために」避難し、苦しい生活に耐えている。何よりその根拠が奪われるのだ。また賠償なども、子どもへの影響が大きいことを前提に算出されている。これをやり直す手間暇も膨大なはずである。
しかし今、大切なのは、子どもたちへの悪い予測を思い込んだまま頑固に固まることではなく、あらためて子どもの強さに驚嘆し、そうであることを祈りつつ新たな見方受け入れることではないか。コミュニティー再生のためにも、この問題は急いで集中的に検証しなくてはならない。
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