日曜論壇 目次
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第56回 恵方巻き
第55回 「見識」から「厳罰」へ
第54回 オリンピックと原発
第53回 徳島にて
第52回 「マイナンバー」要らない!!
第51回 春が来た!
第50回 高橋亨平先生の思い
第49回 仮設のSさん
第48回 全国の線量調査結果
第47回 教育委員会という「飾り」
第46回 こどもの日の祈り
第45回 悲しみの底
第44回 ダルマの一文字
第43回 原発とTPP
第42回 「裸の王様」と、次の王様
第41回 人牛同病
第40回 急げど慌てず
第39回 大人と子供
第38回 計画病
第37回 「情報」という名の幽霊
第36回 死ねる病院はどこ?
第35回 墓地共用のすすめ
第34回 花散らぬ、嵐
第33回 七転び八起き
第32回 まもなくクランク・アップ
第31回 新作『阿修羅』のこと
第30回 さまざまな立場
第29回 生物多様性と多文化共生
第28回 団子と頭痛
第27回 さまざまな正月
第26回 金風
第25回 お寺のゴミ問題
第24回 私は裁きません!
第23回 なんのための改名か!
第22回 新しい郵便局にお願い
第21回 未然防止策?
第20回 奈落の月
第19回 ちょっと待って!
第18回 若冲展に思う
第17回 嗜好品という文化
第16回 約束
第15回 母から子への手紙
第14回 無鉄砲と、鉄砲
第13回 「小学校英語」必修化に反対!
第12回 木瓜と認知症
第11回 「満」と数え年
第10回 いくつもの春
第9回 ネコとヒトの教育
第8回 電話の電話、郵便の郵便
第7回 同期の不思議
第6回 御朱印コレクション
第5回 自燈明
第4回 帰りなん、いざ!
第3回 ウォーキング・サピエンス
第2回 形而上的おぼん
第1回 タケノコ狩りと自立
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このところ、節分が近づくとあちこちで恵方巻きが売られるようになった。昔は関西圏にしかなかった習慣のはずだが、どうやらこれを広めたのはコンビニらしい。先日沖縄に行ったら、向こうのコンビニ前にも恵方巻き宣伝用の
幟
(
のぼり
)
旗が何本も棚引いていた。商魂がこの国を一色に染めていくようでいささか恐ろしい。
あるコンビニで、一五〇〇本も売れたと聞いて驚いていたら、なんと別なコンビニでは一人の販売員が一万本の注文を取ったというから半端じゃない。いずれも福島県内での話である。
しかし考えてみれば、ヴァレンタインデーのチョコレートだって、お菓子屋さんが広めたようなものだし、各種商品の販促のために「○○の日」なんてのもどんどんできている。単に恵方巻きが広まっただけではとりたてて騒ぐほどのことではないのだろう。
欲を言うなら、せっかく恵方という考え方を広めるなら、ついでに「
方違
(
かたたが
)
え」なども広めたらどうだろう。恵方とは逆に、忌むべき方角も平安時代には問題にした。悪いとされる方角に行かなくてはならない場合、いったん別な方角に出かけ、場合によってはそこに一泊してから目的地に向かうことで、障害が起こることを未然に防ごうとしたのである。
手間暇をかけ、問題が起こることを慎重に避ける、という意味では、節分の元になった
追儺
(
ついな
)
や
鬼遣
(
おにや
)
らいなどもそうだろう。昔は、鬼が嫌がるという桃の木の枝を玄関前に置き、家ごとにその侵入を妨げたらしい。人は昔から、鬼や魔物を怖れてきた。人知を超えた現象があることを、素直に信じていたのだろう。
本来は御札も桃の木で作ったらしいが、なぜ桃の木かというと、桃の花は無邪気の象徴で、邪気に対抗できるのは無邪気だけ、という理屈なのだ。徒手空拳で未然に防護する―これ以上の防衛法があるだろうか。
こんなことを書いたのは、最近のこの国が、まるでこうした歴史的な智慧を忘れたかのように、にわかに積極的な防衛を企て始めたからである。韓国や中国が挑発的なのは確かだが、それをはぐらかす智慧をこの国には期待したい。
桃の木で未然の防護に努めているうちはよかったが、日本人はやがて「桃太郎」という物語を作り出す。鬼は悪い奴、という前提があるのだろうが、かつて鬼がどんな悪事をしたかも聞かされず、わざわざ鬼ケ島まで出かけてやっつけるあの物語は、「侵略」と言われても仕方ないだろう。今の日本にはどうも桃太郎の面影が感じられるのだ。
やはり無邪気な恵方巻きのほかに、「方違え」の慎重さが欲しい。今年になって、中国からの観光客が大幅に増えてきている。尖閣諸島の問題はあっても、「日本製」の特に空気清浄機などが飛ぶように売れるそうだ。平和をもたらすのが商魂だとすれば寂しいけれど、お互い、実際に戦えば恐ろしい鬼になることは、記憶の底にまだ残っているはずである。
福島民報 2014年 2月9日 日曜論壇