日曜論壇 目次
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第58回 ヒューマン・エラー
第57回 「中間」貯蔵施設の行方
第56回 恵方巻き
第55回 「見識」から「厳罰」へ
第54回 オリンピックと原発
第53回 徳島にて
第52回 「マイナンバー」要らない!!
第51回 春が来た!
第50回 高橋亨平先生の思い
第49回 仮設のSさん
第48回 全国の線量調査結果
第47回 教育委員会という「飾り」
第46回 こどもの日の祈り
第45回 悲しみの底
第44回 ダルマの一文字
第43回 原発とTPP
第42回 「裸の王様」と、次の王様
第41回 人牛同病
第40回 急げど慌てず
第39回 大人と子供
第38回 計画病
第37回 「情報」という名の幽霊
第36回 死ねる病院はどこ?
第35回 墓地共用のすすめ
第34回 花散らぬ、嵐
第33回 七転び八起き
第32回 まもなくクランク・アップ
第31回 新作『阿修羅』のこと
第30回 さまざまな立場
第29回 生物多様性と多文化共生
第28回 団子と頭痛
第27回 さまざまな正月
第26回 金風
第25回 お寺のゴミ問題
第24回 私は裁きません!
第23回 なんのための改名か!
第22回 新しい郵便局にお願い
第21回 未然防止策?
第20回 奈落の月
第19回 ちょっと待って!
第18回 若冲展に思う
第17回 嗜好品という文化
第16回 約束
第15回 母から子への手紙
第14回 無鉄砲と、鉄砲
第13回 「小学校英語」必修化に反対!
第12回 木瓜と認知症
第11回 「満」と数え年
第10回 いくつもの春
第9回 ネコとヒトの教育
第8回 電話の電話、郵便の郵便
第7回 同期の不思議
第6回 御朱印コレクション
第5回 自燈明
第4回 帰りなん、いざ!
第3回 ウォーキング・サピエンス
第2回 形而上的おぼん
第1回 タケノコ狩りと自立
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世の中に、いまだかつてミスをしたことがないという人はいるのだろうか。おそらく皆無だろう。たとえばヒットラーも、当時のドイツ人が正当な選挙で選んだのだし、イラク戦争も、アメリカの思い込みで堂々と始まってしまった。
アメリカはまだ、ミスだったとは認めていないが、予測された核施設がどこにも見つからなかった以上、間違いだったと言うしかない。またヒットラーを選んだドイツの人々も集団でミスを犯したと認め、国として長年にわたって賠償金を払いつづけたのである。
東日本大震災では、まだ情報公開が不充分で、なにが間違いだったのかよく分からないことが多い。しかし例えば、慌てふためいた総理が現地にやってきたのは、ミスではなかったか……。
政府の広報機能がその間、完全に麻痺した。ただ、ある意味ではそのお陰で、都市パニックが起こらずに済んだという面も忘れてはならない。そして政府が機能しなくとも葛尾村や川内村は独自に全村避難を決め、わが三春町も厚労省の指示を待たず、県の返却要請も聞かずに「安定ヨウ素剤」を配布した。国や県のミスを、基礎自治体や住民個々が補う動きをしたのである。
中間貯蔵施設の決め方や汚染水の処理法などにも、ミスはないのだろうか。あるいは警戒区域だった相双地方の市町村民のために、国が集団で移転できる場所を確保しないのは、間違いではないのだろうか。TPPはどうなのか、農業の集約大規模化はこの国でも妥当なやり方なのか……、いろいろあるが、それが失敗や間違いなのかどうかは、すぐには見えてこないことも多い。
間違いだったと分かれば、普通はその都度修正することもできる。しかし世の中には、修正可能なミスだけでなく、取り返しのつかないミスもあるはずである。原発の爆発事故や冒頭に挙げたホロコースト、あるいは戦争などがその代表的事例だろう。後悔しても許されないほど、それは大量の死者や被災者を出す。
二○○○年のミレニアムを記念し、ロンドンのテムズ河に掛けられたミレニアムブリッジで、開通早々想定外の「横揺れ」が起こり、あえなく三日後に閉鎖される事件があった。そこで起きたのは、当初の微かな揺れに対する個々人の重心の移動が、千人規模で同期した結果である。たとえ間違って始まった戦争であっても、巻き込まれればおそらく国民は同期し、「横揺れ」は拡大するだろう。
集団的自衛権が憲法論議もないまま間違って容認され、アメリカが間違って始めた戦争に荷担すれば、日本もその日からテロの対象国になる。そうなればテロリストの狙いは、全国で再稼働される原発。それだけは間違いない。「人間は間違えるもの」そして「間違っても突っ走るもの」。そう思っていないリーダーは恐ろしい。
福島民報 2014年 6月15日 日曜論壇