日曜論壇 目次
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第59回 屋根裏地獄
第58回 ヒューマン・エラー
第57回 「中間」貯蔵施設の行方
第56回 恵方巻き
第55回 「見識」から「厳罰」へ
第54回 オリンピックと原発
第53回 徳島にて
第52回 「マイナンバー」要らない!!
第51回 春が来た!
第50回 高橋亨平先生の思い
第49回 仮設のSさん
第48回 全国の線量調査結果
第47回 教育委員会という「飾り」
第46回 こどもの日の祈り
第45回 悲しみの底
第44回 ダルマの一文字
第43回 原発とTPP
第42回 「裸の王様」と、次の王様
第41回 人牛同病
第40回 急げど慌てず
第39回 大人と子供
第38回 計画病
第37回 「情報」という名の幽霊
第36回 死ねる病院はどこ?
第35回 墓地共用のすすめ
第34回 花散らぬ、嵐
第33回 七転び八起き
第32回 まもなくクランク・アップ
第31回 新作『阿修羅』のこと
第30回 さまざまな立場
第29回 生物多様性と多文化共生
第28回 団子と頭痛
第27回 さまざまな正月
第26回 金風
第25回 お寺のゴミ問題
第24回 私は裁きません!
第23回 なんのための改名か!
第22回 新しい郵便局にお願い
第21回 未然防止策?
第20回 奈落の月
第19回 ちょっと待って!
第18回 若冲展に思う
第17回 嗜好品という文化
第16回 約束
第15回 母から子への手紙
第14回 無鉄砲と、鉄砲
第13回 「小学校英語」必修化に反対!
第12回 木瓜と認知症
第11回 「満」と数え年
第10回 いくつもの春
第9回 ネコとヒトの教育
第8回 電話の電話、郵便の郵便
第7回 同期の不思議
第6回 御朱印コレクション
第5回 自燈明
第4回 帰りなん、いざ!
第3回 ウォーキング・サピエンス
第2回 形而上的おぼん
第1回 タケノコ狩りと自立
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今年の五月八日から、本堂の改修工事が始まった。周囲に足場を組み、屋根に覆いを掛け、トタンやその下の茅を取り除き、屋組みの一部は壊して作り直す。途中、基礎の台木を入れ替えて水平を取り戻し、壁の表面も塗り直し、建具も作り替えるという大工事である。一八〇〇(寛政十二)年に本堂が仮普請でできあがって以来、間違いなく最大の改修工事である。
当初、茅をどこに処分するかが大問題だった。トタンに覆われていたから放射能など関係ないはずだが、とにかく「福島県内の産業廃棄物」と括られるため、県外への移送は許されない。幸い、檀家さんが広い土地を持っていて一手に引き受けてくださり、本当に助かった。しかも「茅はいい肥料になる」と暢気に喜んでくださる。天はわが普請に与せり、と思える好調な滑り出しであった。
ところが七月になると、未曾有といえるほどの台風の予報が出された。鳶の人たちが一斉に屋根の上にかけた鉄パイプに登り、広大なシート全体に厳重にロープを掛けた。風は入り込んで仮屋根が飛ばないよう、小さな隙間も塞いだのである。
その後の炎暑はご存じのとおり。毎日、猛暑日が続いた。
毎朝八時半に挨拶に来る大工さんが、その日はどういうわけか来なかった。不思議に思っていると、熱射病で三人が倒れたという。
思えば地上でも、体温を上回るほどの炎暑である。大工さんが五十度まで計れる温度計を持って上がっても、屋根裏では振り切れて正確な温度は分からないという。「六十度なのか、七十度なのか」と言って生き残りの一人が力なく溜息をついた。
二日休んでまた全員で屋根裏に入りはじめたのだが、どうにも耐えられない。やがて、朝の五時から現場に来るようになった。涼しい午前中に仕事を進め、昼過ぎには終わる段取りである。
しかしそれでも午前十時頃には相当の暑さになる。地上でさえ病葉が目立つようになり、日によっては朝から屋根裏に熱が籠っている。こうなったら仕事は真夜中にするしかない、ということになり、「夜の八時すぎくらいから、朝までやってもいいでしょうか」と大工さんが訊いてきた。うちのほうはかまわないけれど、とにかく体を壊さないように、やれるようにやってください、としか言いようがない。
そんなとき再び台風の予報が出され、俄かに雷も鳴りだした。炎暑がやむだけでも嬉しいニュースだった。しかし台風のために厳重なシートは取れず、残暑はまだまだ続く。とうとう八月七日から夜中仕事になった。真昼の暑さも地獄に違いないが、投光器の光で夜中に茅を運ぶのも地獄に違いない。地獄は堕ちるものと思っていたが、今晩も彼らは地獄に登っていく。
福島民報 2014年 8月17日 日曜論壇