其の弐拾六 | ||
二月、三月と、たてつづけに短編集『光の山』(新潮社)で文学賞をいただいた。一つは新聞などに報道もされたから、あるいはご承知の方もいるかもしれない。芸術選奨文部科学大臣賞である。 ところがもう一つのほうは、おそらくご存じの方もいないのではないか。ちょっと珍しいし、ご紹介したい。それは「S-meme震災後文学賞」というのだが、どなたかご存じだろうか。 手許にある賞状を見れば、賞を出した主体もわかるはず。そう思って見てみるが、下さったのは「震災後文学賞選考委員」とあり、審査委員長として佐々木暢氏の名前が書いてあるばかり。はっきり言って、団体も個人もまったく存じ上げなかったのである。 授賞の仕方がまた対称的だった。片や文化庁の方から事前に連絡があり、受賞了承後は、二度にわたる書類の提出があった。しかもいつまでも口外すべからずとの時限箝口令。当日は事前に説明のための時間がとってあり、賞状を受け取る動きまで指示された。まるで卒業証書を授与されるみたいだった。 一方、「S-meme震災後文学賞」の授賞式はといえば、こちらは私の講演会場であった東北学院大学が突然その会場になった。私が授賞式に呼ばれたのではなく、代表の二人が私の講演会場まで来てくれたのである。 私にとっては突然だったが、さすがに司会者には話が通じており、講演後に「これから賞状を授与したいと言う。「え」と驚きつつ、私も演壇から降り、東北大の大学院生という男子と、仙台文学館の女性職員だという二人を階段教室の底のほうで迎え受けた。位置関係からいえば、「授与される」というより「差し上げられちゃう」に近い。ともあれ私は、狐につままれたような気分のまま賞状を戴き、聴衆による二度目の拍手に包まれたのである。 後日、その選考の様子や選評などの収められた奇妙な冊子『S-meme』 Vol.7が届いた。それによると、どうもこれはSSD(せんだいスクール・オブ・デザイン)の受講生たちによる選考決定らしい。 SSDとは、東北大学大学院工学研究科都市・建築学専攻の学生と仙台市が連携したプログラム。今回の「震災後文学賞」という企画は、そのなかのメディア軸の授業のあとの飲み会で発案されたという。 べつに、どこで何をしながら発案してもいいし、被災地仙台からの視点に絞り込んだのも面白かった。「S-meme」の「S」はたぶん「Sendai」の「S」だろう。 しかし敢えて苦言を二つばかり。一つは、選考過程の記録から、選考に関わった人々の全てが、候補作の全てを読んでいないことがわかる。これはやっぱりマズイ。もう一つは、そのせいかとことん謙虚な受賞者側なのだが、もとより賞金はないのだし、仙台の飲み屋くらい誘ってくれてもよかったのではないか……。私は複雑な思いを胸に、夜汽車で帰ったのである。 |
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東京新聞 2014年5月3日/中日新聞 2014年5月17日【生活面】 | ||
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